【製造業DX】なぜ現場はシステム導入を嫌うのか?
『使われないIT』を生む最大の原因と解決策
こんにちは、 システムエンジニアの上野です。
※この記事は、筆者(上野)の過去15年の製造現場経験と、現在のSEとしての知見に基づき、製造業DX におけるデータ活用の課題と「伴走支援」の重要性について考察したものです。ケーエスピー株式会社の公式な見解や、特定の企業様(過去の在籍企業を含む)を批判・評価する意図は一切ございません。
「数百万かけて導入した生産管理システム、結局誰も使っていないじゃないか……」
現場の棚の奥で、ホコリを被ったタブレット端末を見て、ため息をついたことはありませんか? 経営層からは「DXを進めろ」と急かされ、現場からは「あんな使いにくいもん、仕事の邪魔だ」と突き返される。
板挟みの担当者様、あるいは経営者様。 その失敗、あなたのせいではありません。
私は製造業の現場に15年、その後システムエンジニアとして3年。両方の視点から「なぜ製造業のシステム導入は失敗するのか」を見てきました。 結論から言います。失敗の原因は、システムの性能でも、現場のITリテラシーの低さでもありません。
「パソコンを『魔法の杖』だと勘違いしていること」。これに尽きます。
この記事では、多くの企業が陥る「DXの落とし穴」と、それを回避するための独自の視点「ベルトコンベア論」について解説します。
あなたの会社、こうなっていませんか?
「現場の悲鳴」チェックリスト
まずは、よくある「失敗の兆候」を確認してみましょう。
- システムに入力するのが面倒で、結局「紙の日報」や「Excel」が正とされている。
- 「前のやり方の方が速かった」とベテラン社員が公言して憚らない。
- 機能が多すぎて、どのボタンを押せばいいかマニュアルを見ないとわからない。
- システム会社に改修を頼むと「それは仕様です」「追加費用がかかります」と言われる。
もし一つでも当てはまるなら、そのプロジェクトは「現場の業務(リアリティ)」と「理想(システム)」の乖離によって、窒息寸前です。
製造業のシステム導入が失敗する
「3つの典型的パターン」
一般的に言われる失敗原因は、大きく以下の3つに分類されます。
1. 現場無視のトップダウン導入
「社長がやれと言ったから」「補助金が出るから」という理由だけで導入が決まるケースです。現場の課題解決ではなく、導入そのものが目的化しているため、現場は「やらされ仕事」としか感じません。
2. 業務フロー(段取り)の未整理
ここが最も重要です。アナログの時点でグチャグチャな業務を、そのままシステム化しようとするパターンです。「悪い業務フロー」を自動化しても、高速でミスが起きるだけです。
3. 操作が難しすぎる(UIの問題)
現場は「油のついた手袋」や「騒音の中」で作業しています。スマホゲームのように直感的に操作できないシステムは、1週間で飽きられ、2週間で無視されます。
参考リンク: 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX白書」においても、日本企業のDXが進まない要因として「現場の抵抗」や「人材不足」だけでなく、「変革への理解不足(経営層と現場の意識ギャップ)」が指摘されています。
【核心】システムは魔法ではない
ただの「高速ベルトコンベア」だ
ここからが本題です。なぜ、上記の失敗が繰り返されるのか。 それは、皆さんがパソコンやシステムを「入れたら何かが良くなる魔法の箱」だと思っているからです。
私のSEとしての持論をお話しします。 システムとは、ただの「超高速ベルトコンベア」です。
イメージしてください。 あなたの工場のラインで、前工程の段取りが悪く、不良品や仕掛品がごちゃ混ぜに流れてくるとします。 そこに、最新鋭の「超高速ベルトコンベア」を導入したらどうなるでしょうか?
生産性が上がる? いいえ、違います。 「ごちゃ混ぜのゴミ」が、猛烈なスピードで下流工程に山積みになるだけです。
これが、多くの現場で起きている「システム導入失敗」の正体です。 現場の「段取り(ルール)」が整っていないのに、システムというコンベアだけを速くしても、現場は混乱し、拒絶反応を起こすのは当然の帰結なのです。
例えば、よくある「在庫管理システム」の導入も同じ理屈です。 現場でモノの置き場所(ロケーション)が決まっていないのに、管理システムだけ入れても入力データと実在庫がズレるのは当たり前。
システムは「決まったルールを高速で回す」ことしかできません。「ルール(置き場所)を決める」のは、システムではなく人間の仕事なのです。
解決策:必要なのはシステム更新ではない
「現場の言葉」の翻訳だ
では、どうすれば「使われるシステム」になるのか。 答えはシンプルです。コンベアを回す前に、現場の親父さんたちが持っている「段取りの極意」を、システムの言葉に翻訳してあげることです。
現場がシステムを嫌うのは、「俺たちのこだわりの手順(文脈)が無視されている」と感じるからです。
- 「ここは、あえて手書きでメモを残さないと次が困るんだ」
- 「この数値は、機械の音を聞いてからじゃないと確定できないんだ」
こうした「現場の文脈」を理解せず、ITベンダーは「効率化ですから入力してください」と言います。これでは対話になりません。
私は「通訳」として現場に入ります
私は、15年間の現場経験で「親父さんたちの理屈」を知っています。そして、3年間のSE経験で「システムの論理」も知っています。
私が提供するのは、単なるシステム開発ではありません。 現場のボヤキやこだわりをヒアリングし、「あ、それならシステム側をこう調整すれば、親父さんのやりたい通りになりますよ」と翻訳し、実装することです。
「日報の自動化」や「技術伝承の仕組み化」も、すべてはこの「翻訳作業」から始まっています。
まとめ:これは「業務改善」ではない
「生存戦略」だ
システム導入で悩んでいるなら、一度立ち止まってください。 高価なパッケージソフトを探す前に、やるべきことがあります。
「現場の段取り(アナログな業務フロー)の整理」と「現場とシステム担当者の通訳」です。
システム導入は、単なるツールの買い替えではありません。「誰に何を継承させ、組織としてどう生き残るか」という、企業の生存戦略(AI危機管理)そのものです。
私はただのSEとしてではなく、その戦略を現場レベルで遂行する「攻める情シス(通訳者)」として、皆さんの組織に関わります。
もし、社内にその「通訳」ができる人間がいないなら、私に声をかけてください。 現場の職人さんが「これなら使ってやってもいいか」と納得する、地に足のついたDXを一緒に始めましょう。
私は、製造現場の「もったいない」を知るSEとして、その「めんどくさい」に隠された「お宝データ」を発掘し、仕組み化するお手伝いをしています。
「ウチも同じ問題を抱えている」 「何から手をつければいいか、一緒に考えてほしい」
そうお考えの経営者様、ご担当者様。 まずは、あなたの現場の「めんどくさい」を、私に聞かせていただけませんか。
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