なぜ、あなたの会社の「技術継承マニュアル」は使われないのか? ――DXが“失敗のデータ化”から始まる辛辣な真実

 技術継承が課題だ」「若手が育たない」 「ベテランがあと数年で辞めてしまう」

 製造現場の経営者様や担当者様と話をしていると、必ずと言っていいほどこの「技術継承」という言葉が出てきます。そして、多くの方がこう続けます。

 「だから、ウチもDX(デジルトランスフォーメーション)が必要なんだ」 「AIを導入して、ベテランの技術を残せないか」

 その焦り、痛いほどわかります。 しかし、同時にこうも思いませんか?

 「マニュアルは作った。動画も撮った。でも、誰も見ないし、結局育たない」 「AIだ、DXだと言われても、現場にそんな時間も金もない!」

 これは、製造業の現場を走り回って15年、泥にまみれてきた私が、SE(システムエンジニア)3年目になった今、確信していることをお話します。

 もしあなたが、「AIで一発逆転」「魔法のツールで技術継承が楽になる」といった“甘い誘惑”を少しでも期待しているなら、この記事は“予防接種”になるかもしれません。 あるいは、過去のツール導入で失敗し「ウチはもう無理だ」と“トラウマ”を抱えているなら、その失敗が「必然」であったことを言語化できるはずです。

この記事は、世の中にあふれる薄っぺらいDX論とは一線を画します。「なぜ失敗するのか」の本質と、その“めんどくさい”解決策について、私の実体験から得た辛辣な真実をお話しします。

※この記事は、筆者(上野)の過去の個人的な実体験に基づき、製造業におけるデータ活用の課題と「伴走支援」の重要性について考察したものです。ケーエスピー株式会社の公式な見解や、特定の企業様(過去の在籍企業を含む)を批判・評価する意図は一切ございません。


「結果」しか伝わらないマニュアルの“落とし穴”

 皆さんの会社では、技術継承をどのように行っていますか?

  • 「見て覚えろ」とベテランの横につける(OJT)
  • ベテランの作業を言語化して、分厚いマニュアルを作る
  • 作業風景を動画で撮影し、いつでも見られるようにする

 どれも正解です。しかし、私はここに大きな「落とし穴」があると考えています。

 これらの方法は、ベテランの「動き」や、そこから生み出された「結果(=成功例)」は記録できます。 ですが、本当に継承すべき「技術」が継承されているでしょうか?

 技術継承が難しい最大の要因は「暗黙知」の存在です。 これは、ベテランが長年の苦労と経験の末に身につけた「言葉にできない“勘”や“コツ”」のことです。

 例えば、一流アスリートの動きを完璧にスローモーションで模倣したら、同じ結果が出せるでしょうか? 出せませんよね。そこには、その日の湿度、体調、相手の動きなど、無数の変数に対する「微調整」や「判断」という暗黙知が存在します。

 マニュアルや動画は「0」の新人を「1」に引き上げる(=これが正解の動きだ)と示す短期的効果はあります。 しかし、本当に知りたいのは、そこに至るまでの「なぜ」です。

  • なぜ、ベテランはあの時、いつもと違う手順を選んだのか?
  • なぜ、あの機械の音を聞いて「いつもと違う」と判断できたのか?
  • その「判断基準」は、過去のどんな「苦労」や「失敗」から生まれたのか?

 この「なぜ」の部分が蓄積されない限り、マニュアルはただの「結果報告書」であり、それ以上の成長を生み出す資産にはならないのです。

なぜ「見て覚えろ」は、伝承に失敗するのか?

 では、なぜ最近になって、これほどまでに技術継承が難しくなったのでしょうか。 「マニュアルが足りない」から? 「OJTの時間が足りない」から?

 いいえ、違います。 教育方法は「昔と同じ」はずなのに、伝わる「中身」が変わってしまったからです。

 これは私の持論ですが、「世代」によって“学び”の環境が決定的に異なりました。

  • 第1世代(創業世代): 「1日8時間悩む(=仕事 Work)」を実践し、「10分の作業を5分にするノウハウ(=暗黙知)」を生み出した超人たちです。
  • 第2世代(ベテラン世代): その第1世代から「見て覚えろ」と教育されました。しかし、彼らは幸運でした。目の前には、第1世代の「“8時間悩む”苦労の過程」や「生々しい失敗」が溢れていたからです。彼らは「なぜ(Why)」を“盗み見る”ことができました。
  • 第3世代(若手世代): その第2世代から、同じく「見て覚えろ」と教育されます。

 ここに、“決定的な断絶”があります。 第2世代が「見て覚えろ」と第3世代に教える時、現場はすでに「効率化・標準化」されています。

 第3世代の目に見えるのは、第2世代が完璧にこなす「“失敗のない”5分の作業(Task)」だけ。 第2世代がかつて目にしたはずの「8時間悩んだ“失敗”の過程」は、もはや現場に存在しません。“苦労”が見えないのですから、そこに「学び(Why)」が生まれるはずがないのです。

 これは、第2世代が「意地悪」をしているのでも、「めんどくさがって逃げた」のでもありません。

 彼らは自分が受けた教育を、良かれと思ってそのまま実践しているだけです。 そして、彼らにとって「なぜ」の部分は、呼吸や歩き方と同じレベルの「当たり前」になっています。

 あなたは歩き始めた赤ちゃんに「上半身を少し傾けると安定するよ」などと、“当たり前”を言語化して教えますか? 人間は、「当たり前」を説明するという非合理的な作業を、基本的に行えない(必要性を感じない)生き物なのです。

 「標準化」が悪いのではありません。 「教育方法」が悪いのでもありません。 環境の変化によって「見て覚えろ」という同じ言葉が、「失敗の過程(Why)」を伝える“魔法”から、「完成した作業(Task)」しか伝えない“呪い”に変わってしまったのです。

 この「“当たり前”の“断絶”」こそが、あなたの会社のノウハウが失われていく「危機的状況」の正体です。

DXの“本当の目的”を勘違いしていませんか?

 ここで「DX」の話に戻ります。 多くの方が「DX=効率化(デジタル化)」と誤解していますが、本質は違います。

 経済産業省が発行する「DX推進ガイドライン」を見ても、DXとは「単なるIT導入や自動化にとどまらず、経営や事業モデル、組織文化そのものの抜本的な変革」(※)が本質であるとされています。

(※参考:経済産業省『デジタルガバナンス・コード2.0』(旧『DX推進ガイドライン』)

 私流の言葉で言えば、DXの本当の意味とは、「成長するための手段」です。

 そして、製造業におけるDXの本質とは、まさに、第2世代の頭の中に「当たり前」として“塩漬け”にされている「過去の事例に埋もれていった“失敗談(8時間の苦労)”を掘り出し、二度と失われないようにデータ化すること」だと考えています。

 「あの時、なぜあの不良品が出たのか」 「あのクレームの本当の原因は、どの工程の“判断ミス”だったのか」

 こうした「失敗」こそが、あなたの会社の「暗黙知」であり、他社が真似できない「強み」の源泉です。

 例えば、毎日書かされている「日報」も、単なる作業記録として提出・確認するだけでは“もったいない”。それは「なぜ今日は作業が遅れたのか」「どんな小さなヒヤリハットがあったのか」という、“失敗のタネ”が詰まった貴重なデータソースです。

 この「失敗のデータ化」こそが、本当のDXの第一歩です。

「技術継承」と「DX」は、同じ“根っこ”で繋がっている

 ここまで来れば、お分かりいただけたかと思います。

 「技術継承(=第2世代の“当たり前”の継承)」と「DX(=“当たり前”のデータ化)」は、全く別の問題ではなく、同じ“根っこ”で繋がっています。

世の中では「動画を撮れば解決する」「AIに学習させれば解決する」といった甘い言葉が飛び交っています。 しかし、AIは万能ではありません。

  • 動画は「結果(5分の作業)」を蓄積するだけで、「なぜ(8時間の苦労)」は教えてくれません。
  • AIは「発掘作業」を効率化するだけで、「何を発掘すべきか(=塩漬けにされた暗黙知)」は知りません。

 AIに丸投げしたところで、返ってくるのは「一般的」な解決策だけです。そんなものが、あなたの会社に今すぐ必要な「答え」でしょうか?

 「どのデータを集めるべきか」「どの“当たり前”に価値があるか」 その答えを知っているのは、AIではなく、現場の当事者である「あなた」だけです。

 お金をかけて「永遠に引退しないベテラン職人AI」を作ることを目指すのであれば、それも一つの正解でしょう。 しかし、私が目指したいのは「20年かけて到達した知見を1年で新人に伝授し、肩を並べて議論できる」ような、人が成長し続ける「仕組み」を作ることです。

データを「集める」ことと「活かす」ことは違う

 私はSEとして、多くの「ツール導入」の現場を見てきました。 しかし、高価なシステムを入れただけでは、何も解決しませんでした。

 なぜなら、「要件定義の丸投げ」が起きるからです。 現場は「めんどくさい」から、システム屋に「うまくやっておいて」と期待する。システム屋は「現場の“本音”(=当たり前すぎて言語化されない暗黙知)」を知らないから、一般的な機能しか作れない。

 結果、誰も使わない「ゴミ」のようなシステムが完成します。 これは、技術継承マニュアルが使われない構図と全く同じです。

結論:あなたの会社の“お宝”は、どこに埋もれていますか?

 技術継承も、DXも、近道はありません。 その本質は、ベテランの頭の中に“塩漬け”にされている「失敗」や「苦労」という名の“お宝”を、当事者である私たちが「めんどくさい」を乗り越えて掘り起こし、データ化する作業です。

 私自身、エリートではありません。 だからこそ、この「めんどくさい」の先にある「本質的な仕組み化」を信じています。

 あなたの会社に埋もれた「“当たり前”という名のお宝」は、どこに隠されていますか? それは、古びた日報の中かもしれませんし、ベテランの頭の中、あるいは放置された在庫管理のデータの中かもしれません。

 「ウチの課題は、たぶん“ここ”にある」 「この“当たり前”を言語化するのを手伝ってほしい」

 もし、そう感じた経営者様、担当者様がいらっしゃいましたら、まずは「壁打ち」相手として私、上野にお声がけください。

 ツールを売る(導入する)ことだけがゴールなら、私はSEになっていません。 あなたの会社が持つ「“当たり前”というお宝」を、未来の「強み」に変える。その“めんどくさい”道のりを、私はあなたと伴走したいのです。


私は、製造現場の「もったいない」を知るSEとして、その「めんどくさい」に隠された「お宝データ」を発掘し、仕組み化するお手伝いをしています。

「ウチも同じ問題を抱えている」 「何から手をつければいいか、一緒に考えてほしい」

そうお考えの経営者様、ご担当者様。 まずは、あなたの現場の「めんどくさい」を、私に聞かせていただけませんか。


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