AIが人間に合わせるのではない。人間がAIに「忖度」して話す時代が、静かに始まっている
※この記事は、筆者(上野)の過去の個人的な実体験に基づき、製造業におけるデータ活用の課題と「伴走支援」の重要性について考察したものです。ケーエスピー株式会社の公式な見解や、特定の企業様(過去の在籍企業を含む)を批判・評価する意図は一切ございません。
こんにちは。製造業出身のSE、上野です。
突然ですが、あなたはChatGPTやClaudeなどの生成AIに指示を出すとき、「お願いします」とか「敬語」を使っていませんか? あるいは、AIが良い回答を出せるように、「AIが理解しやすいような書き方」を必死に考えていませんか?
ふと冷静になると、おかしな話だと思いませんか。 私たちは「道具」を使っているはずです。金槌に「お願いします」とは言いませんし、Excelのご機嫌を伺ったりはしません。
しかし今、現場では「人間による、AIへの忖度(そんたく)」が静かに、しかし確実に始まっています。 これは「人間が機械に使われるディストピア(暗黒郷)」の入り口なのでしょうか? それとも、私たちが進化する過程なのでしょうか?
今回は、少し未来の視点から、この「主従逆転」のリスクと、その乗りこなし方について考えます。
1. 「AI様」のために汗をかく人間たち
かつて、システム開発(UI/UX)の鉄則は「システムを人間に合わせろ」でした。 人間が直感的に使えるボタン、分かりやすい画面。人間が楽をするために、システム側が複雑な処理を請け負うのが正義でした。
しかし、生成AIの登場で流れが変わりました。 今のトレンドは、「人間が、AIの性能を引き出しやすいように振る舞う」ことです。
- プロンプトエンジニアリング: AIが誤解しないよう、人間側が論理的に、事細かに指示を設計する。
- 構造化データ: AIが読み取りやすいよう、人間がわざわざExcelの表をMarkdown形式に整形してあげる。
これは見方によっては、「性能の低い部下(AI)のために、上司(人間)がお膳立てをしてあげている状態」です。 「AIのおかげで楽になった」と言いつつ、実は私たちの脳のリソースは、「どうすればAI様が働いてくれるか」を考えることに奪われていないでしょうか?
2. 警鐘:「思考の主導権」を渡すな
この「AIへの忖度」が行き着く先には、一つの危険な落とし穴があります。 それは、「AIが処理しやすい仕事しかしなくなる」という本末転倒です。
- 「この複雑な悩みはAIには伝わらないから、相談するのはやめよう」
- 「この独創的なアイデアはAIが『一般的ではない』と評価を下げるから、ボツにしよう」
- 「AIが書きやすい構成の記事を書こう」
これこそが、私が最も恐れる「人間性の喪失」です。 効率を追い求めるあまり、AIという「枠」の中に自分を押し込め、そこからはみ出る「ノイズ(人間らしさ・雑味)」を自ら切り捨ててしまう。
以前の記事「現場の『野良Excel』はイノベーションの種だ」でも書きましたが、イノベーションは常に「非効率」や「ノイズ」の中にあります。AIへの過度な忖度は、その種を枯らせてしまう可能性があります。
33. 逆転の発想:「AIへの忖度」は最強の言語化トレーニング
では、AIに合わせるのはやめて、適当に話しかければいいのでしょうか? いいえ、それも違います。ここが今回の最大のポイントです。
「AIに伝わるように論理的に話す」という行為そのものは、あなたの「マネジメント能力」を飛躍的に高める最高の道場になります。
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が公開している「生成AIの利用ガイドライン」などの公的な指針でも、AIの回答には誤りが含まれる前提で、人間が監督・指示することの重要性が説かれています。
AIは「空気を読まない、超高性能な新人」です。「あれやっといて」では動きません。「いつまでに、何を、どういう形式で、何のために」を言語化しなければなりません。 この「対AI用の言語化プロセス」は、そのまま「対人間(部下への指示出し)」にも応用できるのです。
つまり、忖度には「良い忖度」と「悪い忖度」があります。
- × 悪い忖度: AIの限界に合わせて、自分の思考やアイデアのレベルを下げること。
- ○ 良い忖度: AIという「融通の利かない相手」を動かすために、自分の伝達能力・言語化能力を拡張させること。
あなたは今、どちらの忖度をしていますか?
結論:F1マシン(AI)に乗られるな。ドライバーはあなただ。
AIとの付き合い方は、「F1レーサー」に似ているかもしれません。
モンスターマシンの性能を引き出すために、エンジニアと対話し、細かくチューニングする。それは必要な努力です。 しかし、時速300kmの世界でハンドルを握り、「どっちに曲がるか」を決めるのは、絶対に人間(ドライバー)でなくてはなりません。
AIに対して敬語を使っても構いません。論理的に説明してあげるのも素晴らしいことです。 しかし、最後の「決定(Decision)」と「責任(Responsibility)」だけは、絶対に手放してはいけません。
- AIが出した答えに違和感があるなら、それはAIが正しいのではなく、あなたの「現場の直感」が正しいのです。
- AIが「できません」と言っても、あなたがやるべきだと思うなら、泥臭い手作業でやるべきなのです。
AIは、極めて優秀ですが、「痛み」を知らないただの計算機です。 痛みを知るあなただけが、真の「主(リーダー)」になれる。 どうか、その誇りだけは、便利なツールに明け渡さないでください。
私は、製造現場の「もったいない」を知るSEとして、その「めんどくさい」に隠された「お宝データ」を発掘し、仕組み化するお手伝いをしています。
「ウチも同じ問題を抱えている」 「何から手をつければいいか、一緒に考えてほしい」
そうお考えの経営者様、ご担当者様。 まずは、あなたの現場の「めんどくさい」を、私に聞かせていただけませんか。
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