AIに「指示」は出せても、「悩み」は語れない。現場だけが知る「痛み」を言語化する力こそ、最強の生存スキルである
※この記事は、筆者(上野)の過去の個人的な実体験に基づき、製造業におけるデータ活用の課題と「伴走支援」の重要性について考察したものです。ケーエスピー株式会社の公式な見解や、特定の企業様(過去の在籍企業を含む)を批判・評価する意図は一切ございません。
こんにちは。製造業出身のシステムエンジニア、上野です。
「AIがメールの返信を書いてくれる時代に、国語力なんて必要あるの?」 「指示さえ出せば、AIが勝手に解決策を出してくれるんでしょ?」
最近、そんな声をよく耳にします。 確かに、「てにをは」を直したり、ビジネスメールのような「綺麗な文章」を書く能力は、もう不要になりつつあるでしょう。それはAIの方が圧倒的に上手です。
しかし、私はあえて言います。 AI時代だからこそ、これまでとは違う意味での「国語力」が、かつてないほど重要になっています。
それは、綺麗な文章を書く力ではありません。 「目の前にあるモヤモヤとした問題(カオス)」を、「何が起きているのか(事実)」として切り出し、言葉にする力です。
これは、現場に立ち、泥臭いトラブルと向き合っているあなたにしかできない「聖域」の話です。
1. AIは「お題」がないと動けない
生成AIは、極めて優秀な「魔法の杖」であり、世界一物知りな「コンサルタント」です。 しかし、彼らには致命的な弱点があります。
それは、「自分からは何も問題を感じない」ということです。
AIが見えないもの
例えば、工場のラインで異音がしたとします。
- 現場のあなた: 「ん? いつもよりモーターの音が甲高いな。油切れか? それとも軸がズレたか?」と違和感を感じます。
- AI: マイクやセンサーがなければ、その音は存在しません。仮にデータとして入力されても、「音がする」という事実があるだけで、「それがヤバい音かどうか」の文脈は人間が与えない限り分かりません。
「現場の特権」とはこれです。 AIは画面の中に閉じ込められています。「熱い」「臭い」「おかしい」「使いにくい」といった「一次情報(痛み)」を感じ取れるのは、生身の人間だけなのです。
2. 「なんとなく不便」を「要件」に翻訳する
しかし、「痛み」を感じるだけでは解決しません。 ここで必要になるのが、これからの時代の国語力、すなわち「翻訳能力」です。
多くの人は、AIやSEに対してこう言います。
「なんかこのシステム、使いにくいんだよね。いい感じに直してよ」
これは「感想」であって「定義」ではありません。これではAIもSEも動けません。 必要なのは、その「なんか使いにくい」の正体を突き止め、言語化することです。
「国語力」のビフォーアフター
- × 古い国語力(感想): 「在庫管理が大変だから、AIで楽にしてほしい」 (AIの回答:一般的な在庫管理ソフトを紹介します)
- ○ 新しい国語力(定義): 「何が: 入庫作業において」 「どんな問題で: 毎回品番を手入力するのが手間で、入力ミスが月10件起きている」 「どうしたいか: バーコードをかざすだけで、ExcelのB列に品番が自動入力されるようにしたい」
ここまで言語化できれば、AIは「Pythonでそのコードを書きますか? それともスマホアプリの案を出しますか?」と、具体的な解決策を瞬時に提示してくれます。
つまり、「現場のカオス(アナログ)」を「論理的な言葉(デジタル)」に変換するプロセスこそが、今後人間に求められる仕事なのです。
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3. 「問題発見」は、現場に出くわした者の特権
経済産業省が提唱する「DXリテラシー標準」の中でも、「Why(なぜやるのか)」を問う力が必要不可欠だとされています。
文章力やプログラミング力は、AIが補完してくれます。 しかし、「今、ここで、何が問題なのか?」を発見する力だけは、代替できません。
私はSEとして現場にも行きますが、最も優秀な担当者は、PCに詳しい人ではありません。 「俺たちの現場は、ここがおかしいんだ!」と、泥臭い課題を具体的に語れる人です。 その熱量と言語化さえあれば、あとは私たちが(あるいはAIが)技術で解決できます。
自分への戒めとして
正直に言えば、私自身もこれが完璧にできているわけではありません。 「なんか上手くいかないな」と悩み、AIに漠然とした相談をしては、的外れな回答をもらって時間を無駄にすることもあります。
そのたびに痛感します。 「AIが悪いんじゃない。私の『問い』が甘かったのだ」と。
結論:AI時代のリーダーは「翻訳家」であれ
もしあなたが、「自分は文章が下手だから」「IT用語を知らないから」とDXに尻込みしているなら、それは間違いです。
あなたには、現場のリアリティが見えています。 必要なのは、そのリアリティを「つまり、こういうことだ」と言葉にする勇気と訓練だけです。
- 「何が」起きているのか?(事実)
- 「なぜ」それが問題なのか?(要因)
- 「どう」なればゴールなのか?(要件)
この3つを整理する訓練を、今日の日報から始めてみませんか? そのメモ書きこそが、AIというスーパーカーを乗りこなすための、唯一無二の「鍵」になるはずです。
私は、製造現場の「もったいない」を知るSEとして、その「めんどくさい」に隠された「お宝データ」を発掘し、仕組み化するお手伝いをしています。
「ウチも同じ問題を抱えている」 「何から手をつければいいか、一緒に考えてほしい」
そうお考えの経営者様、ご担当者様。 まずは、あなたの現場の「めんどくさい」を、私に聞かせていただけませんか。
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