情シスが目の敵にする「シャドーIT」を潰すな。それは現場が必死に生み出した『一輪のイノベーション』かもしれない

こんにちは。製造業15年、現在はSEとして企業の「仕組み化」と格闘しております、上野です。

※この記事は、筆者(上野)の過去の個人的な実体験に基づき、製造業におけるデータ活用の課題と「伴走支援」の重要性について考察したものです。ケーエスピー株式会社の公式な見解や、特定の企業様(過去の在籍企業を含む)を批判・評価する意図は一切ございません。

「また現場が勝手にフリーソフトを入れている……」 「経理の田中さんが、勝手に複雑怪奇なExcelマクロを作ってしまった……」

経営者や情シス(情報システム担当)の方なら、一度はこんな「シャドーIT(会社の許可なく使われるITツール)」に頭を抱えたことがあるでしょう。

セキュリティリスク、データの分断、属人化。 教科書通りにいけば、これらは「即刻排除すべき悪」です。見つけ次第、削除させ、厳重注意をする。それが「正しい管理」だとされています。

しかし、あえて言わせてください。 その「シャドーIT狩り」こそが、貴社のDX(デジタルトランスフォーメーション)を停滞させている最大の原因かもしれません。

なぜなら、リスクを冒してまで現場が作ったそのツールは、「今の会社のシステムでは仕事にならない」という、現場からの切実な「叫び(ニーズ)」そのものだからです。

今回は、嫌われ者の「シャドーIT」を、「宝の地図」に変えるための逆転の発想についてお話しします。


1. なぜ、彼らは「ルール」を破るのか?

まず、断言します。 現場の社員は、会社を危険に晒したくてシャドーITを使っているわけではありません。 彼らは、ただ単に「仕事を早く終わらせたい」「もっと良い成果を出したい」だけなのです。

「けもの道」を作らせていませんか?

ランドスケープ・アーキテクチャ(景観設計)の世界に、「デザイア・ライン(Desire Line)」という言葉があります。 公園に綺麗な舗装路(歩道)を作ったのに、利用者が芝生の上をショートカットして歩くことで、自然にできてしまった「けもの道」のことです。

設計者は「マナー違反だ」と怒るかもしれません。 しかし、利用者からすれば「舗装路が遠回りすぎる(設計ミス)」ことが原因なのです。

企業におけるシャドーITは、まさにこの「けもの道」です。

  • 基幹システムの画面: 入力項目が多すぎて遅い(=遠回りの舗装路)
  • 現場のExcelマクロ: ボタン一つで終わる(=効率的なけもの道)

この状況で「Excel禁止!基幹システムを使え!」と叱るのは、「芝生に入るな!」と看板を立てるのと同じです。 それは一時的に効果があるかもしれませんが、根本的な「使いにくさ」は解消されていません。結果、現場のモチベーションは下がり、隠れて別の抜け道を探すようになります。

これを行動経済学や心理学では「心理的リアクタンス(強制されると反発したくなる心理)」と呼ぶそうです。人間は、非効率を強制されることに耐えられない生き物なのです。


2. その「野良Excel」は、
数百万の価値がある「要求定義書」だ

私は、「現場独自のExcel」や「謎のAccessツール」を、私は真っ先に見せていただくべきだと考えています。

なぜなら、そこには「ベンダー製システムに足りない機能」がすべて実装されているからです。

「野良アプリ」=「無料のプロトタイプ」

例えば、現場のリーダーが夜なべして作った在庫管理Excelを見てみましょう。

  • 「発注点」の計算式が入っている → 今のシステムは自動計算してくれないから。
  • 「備考欄」に配送業者の電話番号がメモされている → システムのマスタにその項目がないから。
  • 異常値が赤色になる条件付き書式が入っている → システムのアラート機能がザルだから。

これをシステム開発会社に依頼して「要件定義」として洗い出そうとすれば、数ヶ月のヒアリングと数百万円のコストがかかります。 しかし、現場のシャドーITは、それを無料で、しかも実務で検証済みの状態で具現化してくれているのです。

これを「勝手なことをするな」と捨てさせるのは、「完成されたプロトタイプ(試作品)」をドブに捨てるようなものです。あまりにも勿体無いと思いませんか?

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3. 「排除」ではなく「公式化」へ

では、シャドーITをどう扱うべきか。 放置すればセキュリティ事故(情報漏洩やウイルス感染)に繋がるのも事実です。 正解は、「排除」ではなく「保護(公式化)」です。

ステップ①:まずは「賞賛」する

勝手なツールを見つけたら、まずは怒らずにこう言ってください。 「すごいな、これ誰が作ったの? 便利そうだね」

これで現場の緊張が解けます。「怒られる」と思っていた現場担当者は、「中身を見てくれる」という事実に救われます。 以前の記事「ミシン修理で学んだ、システムを“人になじませる”技術」でも触れましたが、現場の工夫(クセ)を認めることが信頼への第一歩です。

ステップ②:「なぜ」を分析する

次に、そのツールの中身を分析します。 「なぜ、公式システムではなくこれを使う必要があったのか?」 ここに出てくる答えこそが、貴社のDXにおける「真の課題(To-Doリスト)」です。

ステップ③:安全な場所へ「誘導」する

最後に、その機能を公式な環境に取り込みます。

  • そのExcelの計算ロジックを、情シスが管理するRPAやn8nに移植する。
  • そのフリーソフトと同じ機能を持つ、会社公認の安全な有料ツールを契約してあげる。

これが「デザイア・ライン(けもの道)を舗装する」ということです。 現場のニーズを満たしつつ、セキュリティも担保する。これこそが、情シスや経営者がやるべき「仕事」ではないでしょうか。


結論:「犯人」は、最も熱心な社員かもしれない

シャドーITに手を染める社員は、往々にして「誰よりも真面目に、業務を良くしようとしている人」です。 どうでもいいと思っている社員は、不便なシステムを与えられても、文句を言いながらダラダラ残業するだけです。

「なんとかしたい」という熱意があるからこそ、リスクを冒してまでツールを導入したのです。 その熱意を「ルール違反」の一言で叩き潰す組織に、イノベーションなど生まれるはずがありません。

「毒」と「薬」は紙一重です。 もし貴社の社内に「得体の知れないExcel」や「勝手なツール」が蔓延っているなら、おめでとうございます。 そこには、まだシステム化されていない「業務改善の種」が大量に眠っています。

それらを一つずつ拾い上げ、公式な運用に乗せていく。 そんな「泥臭いDX」の進め方に興味がある経営者様は、ぜひ一度ご相談ください。 貴社の「ゴミ」に見えるデータの中から、私が「お宝」を発掘してみせます。

あなたの会社の「入力」と「出力」、整理できていますか?

私は、製造現場の「もったいない」を知るSEとして、その「めんどくさい」に隠された「お宝データ」を発掘し、仕組み化するお手伝いをしています。

「高いシステムを入れたけど使われていない」「Excel地獄から抜け出したいが、何から手をつければいいかわからない」

そうお考えの経営者様、ご担当者様。 まずは、あなたの現場の「めんどくさい」を、私に聞かせていただけませんか。

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