「システム連携したい」と相談してはいけない。開発費を半減させる魔法の言葉は「このデータを、こう出したい」です【新春連載:「卒Excel」ロードマップ 第2部】

※この記事は、筆者(上野)の過去の個人的な実体験に基づき、製造業におけるデータ活用の課題と「伴走支援」の重要性について考察したものです。ケーエスピー株式会社の公式な見解や、特定の企業様(過去の在籍企業を含む)を批判・評価する意図は一切ございません。

 前回(第1部)では、「Excelは恥ずべきものではなく、現場を守る最強の『治具』である」という話をしました。

 そして最後に、「将来的なシステム化を見据えた、正しいExcel運用の作法」をお話しすると予告しました。

 「Excelの運用」と聞くと、「きれいな表の作り方」や「便利な関数」の話を想像されたかもしれません。
しかし、DXにおける「最も正しいExcelの使い道」とは、表計算することではありません。

 「システム開発の『仕様書』として使うこと」です。

 実は、Excelを「計算機」としてではなく「設計図」として使いこなすことこそが、将来的にSaaSや外部システムへ移行する際の「最強の武器」になります。
今回は、その具体的な手法として、開発費を劇的に下げ、かつ失敗しないための「Excelを使った発注の極意」を伝授します。

 多くの中小企業経営者がぶつかるのが、この壁です。

「今のExcelと同じことができるシステムを作りたい」と相談したら、数百万の見積もりが出てきた。
「要件定義(設計)だけで数ヶ月かかります」と言われた。

 「たかがExcelの置き換えなのに、なんでそんなにかかるんだ!」 そう思ったことはありませんか?

 実はそれ、システム会社がボッタくっているわけではありません。 あなたが、見積もりが跳ね上がる 「禁句(NGワード)」 を使ってしまっているからなのです。

 今回は、連載第2部「戦略編」として、開発費を劇的に下げ、かつ失敗しないための「発注の極意」を伝授します。


1. 高い見積もりの正体は、ベンダーの「恐怖心」

 なぜ、システム開発の見積もりは高くなるのか。 SEの立場から正直に言います。それは 「作った後で『違う』と言われるのが怖いから」 です。

 私たちベンダーにとって、一番のリスクは「言われた通り作ったのに、現場から『使いにくい』『計算が合わない』と突き返されること」です。 だから、そうならないように、事前に綿密な調査を行い、万が一の修正工数も含めた「保険料」を見積もりに上乗せします。

最悪のオーダー:「今のExcelと同じ動きにして」

 特にやってはいけないのが、「今のこのExcelマクロと全く同じ動きをするシステムを作ってください」 という依頼です。

 これを言われた瞬間、SEは絶望します。なぜなら、現場のベテランが長年継ぎ足した「秘伝のタレ」のようなマクロ(スパゲッティコード)を、一行一行解読しなければならないからです。

  他人が書いたコードを読むのは、新規で作るより10倍大変な苦行です。 その「解読料」だけで、見積もりの半分が消えていると思ってください。


2. 魔法の言葉:「Input」と「Output」だけで語れ

 では、どうすれば安くなるのか。 答えはシンプルです。「中身(計算ロジック)」の話をしないことです。

システムというのは、難しく見えますが、実はこの3つの要素しかありません。

  1. Input(入口): 何を入れるか?
  2. Process(中身): どう計算するか?
  3. Output(出口): 何が出るか?

 このうち、一番説明が難しく、誤解が生まれやすいのが「Process(中身)」です。 ここを口頭で説明しようとしたり、「Excelを解析して」と丸投げするから高くなるのです。

「システム連携」と言うな。「CSVを出したい」と言え

 例えば、販売管理システムと会計システムを繋ぎたい時。 「システム連携したい(API連携したい)」と言うと、ベンダーは「難易度が高い」と判断します。

 そこで、こう言い換えてください。

 「この画面に入力したデータ(Input)を、この並び順のCSV形式で吐き出したい(Output)。あとはこっちで取り込むから」

 これだけです。これこそが、開発費を半減させる魔法の言葉です。 「中身」の複雑な処理は一旦忘れ、「入口」と「出口」の形だけを指定するのです。 これなら、SEはExcelを解析する必要もありません。「出口」がその形になるように、最短ルートで作るだけですから。


3. 最強の仕様書は「Excel」で作れる

 「じゃあ、そのInputとOutputをどう伝えればいいの?」 ここで再び、最強のツール Excel の出番です。

 誤解のないように言っておきますが、もしあなたがシステム開発のプロで、完璧な要件定義書(Word)を書けるスキルをお持ちなら、ぜひ書いてください。それが一番安上がりで確実です。

 ただ、正直に言うと、今の私のスキルでは、文章だけで完璧な定義書を書くのは難しいです。
 テキストだと、書いている本人ですら「論理の矛盾」や「抜け漏れ」に気づかないことがよくあるからです。

 ましてや、慣れていない方が書くのは、機能要件ではなく「こうなったらいいな」という「希望」になりがちです。
 曖昧な言葉で埋め尽くされた資料は、ベンダーを混乱させ、「リスク予備費」を積まれる原因になります。

 だからこそ、以下の2つのシートを作って渡してください。Excelなら実際に数値を入れれば矛盾に気づけますし、言葉よりも雄弁に仕様を語ってくれます。

① 入口シート:入力画面の「お絵描き」

 Excelのセルを方眼紙に見立てて、「こんな入力画面が欲しい」という絵を描いてください。 「ここに日付を入れる」「ここに担当者名をプルダウンで選ぶ」。 これだけで、SEには100の言葉より伝わります。

② 出口シート:欲しい「結果の表」

 「最終的に、こういう集計表が欲しい」「会計ソフトには、この列の順番でデータを取り込みたい」 その完成形の表(ダミーデータでOK)を作ってください。

 ここで重要なポイントが一つあります。

 もし、計算方法にこだわり(例:在庫評価は「移動平均法」、消費税は「切り捨て」等)がある場合は、その計算結果が入ったExcelを「答え合わせ用の正解データ」として渡してください。

 「移動平均法で」と言葉だけで伝えると、端数処理のタイミング(計算の都度切り捨てるのか、最後だけか)などで必ずシステムと現場の数値がズレます。

【開発費を下げる、SEへの指示の出し方】

  1. 「基本は、このExcelと同じ結果(Output)が出るようにしてほしい」
  2. ただし、もし『システムの標準機能(安価な方法)』だと計算結果がズレるなら、隠さずに提案してほしい。法的に問題なければ、ウチが業務ルールの方をシステムに合わせて変えるから

 これが最強であり、開発費を極限まで下げる「魔法の交渉術」です。

 多くの場合、Excelの計算式は「なんとなく昔からこうしている」というだけの独自ルールです。それに合わせてシステムを改造すれば数十万円から数百万円かかりますが、「システムに合わせて端数処理を変える(四捨五入にする)」と決めれば、追加費用はゼロ円になります。

「Excelの結果(Output)は絶対」ではない。
「Excelを基準(ものさし)」にして、コストと業務の妥協点を探る。

 これこそが、最も安く、最も確実な発注方法です。

※もちろん特殊なロジックが必要なものについては説明が必要ですが、「システムですべてを解決しようとすると、開発費は青天井になります。『8割はシステムで、残りの2割の例外は運用(手作業)でカバーする』。実はこれが、トータルコストを劇的に下げるプロの鉄則なのです。」


4. 結論:中身は「ブラックボックス」でいい

 第1部で「ベンダー製アプリはブラックボックスだ」と批判しましたが、それは「中身が見えないこと」自体が悪いのではありません。「コントロールできないこと」が悪いのです。

 「入口(Input)」と「出口(Output)」さえ、あなたが握っていれば、中身がどうなっていようと関係ありません。
出口から出てきたCSVデータさえ正しければ、それを別のシステムに入れるなり、分析するなり、自由に使い回せるからです。

「システム連携」という言葉に踊らされないでください。
「中身(Process)」を説明しようとして消耗しないでください。

 もし、中身を作ったベンダーがいなくなっても、あなたには「Input」と「Output(正解)」の定義が手元に残っています。
これさえあれば、別のベンダーに「同じ結果が出る箱を作って」と頼むことができます。

 「属人化」や「ベンダーロックイン」から脱却し、あなたがシステムの主導権を握る方法。
 それが、この「入出力だけを定義する」という発注スタイルなのです。

 さて、発注の仕方は分かりました。 では、高いシステムを買わずに、手元のExcelだけでどこまで「システム化」できるのでしょうか?

 次回の最終回・第3部『実践編』では、私が現場で実際に使っている『更新ボタン不要の自動ガントチャート』のVBAコードを、そのまま無料で公開します。

 「Excelが得意な方なら、似たようなものはすぐ作れる」と思われるかもしれません。
でも、ゼロから作るのは面倒ですよね?
実務で使えるレベルに調整済みのコードを置いておきますので、「時短」のためにコピペして、自由に改造して使ってください。

 「システム化」の第一歩は、そんな手元の改善から始まります。お楽しみに。


【次回予告】

▶︎ 第3部へ続く(1/17 公開予定)

新春連載:「卒Excel」ロードマップ 完結編】

「更新ボタン」すら押さなくていい。コピペで動くVBAと、勝手に日付が変わる関数で、”完全全自動” のガントチャートを作る

>> 完全無料公開:コピペで使える「Excel完全自動ガントチャート」の全コード

※次回記事は 1/17(土) 07:00 に公開されます。

※要件定義やシステム発注でお悩みの方は、IPA(情報処理推進機構)の「ユーザのための要件定義ガイド」なども参考になりますが、まずは自社の「入出力」を整理することから始めてみてください。


あなたの会社の「入力」と「出力」、整理できていますか?

私は、製造現場の「もったいない」を知るSEとして、その「めんどくさい」に隠された「お宝データ」を発掘し、仕組み化するお手伝いをしています。

「高いシステムを入れたけど使われていない」「Excel地獄から抜け出したいが、何から手をつければいいかわからない」

そうお考えの経営者様、ご担当者様。 まずは、あなたの現場の「めんどくさい」を、私に聞かせていただけませんか。


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