【生存戦略Vol.3】老朽化したシステムと心中するな。
「マスタ」と「出力」さえ握れば、
いつでもそのシステムは捨てられる

こんにちは、システムエンジニアの上野です。

※この記事は、筆者(上野)の過去の個人的な実体験に基づき、製造業におけるデータ活用の課題と「伴走支援」の重要性について考察したものです。ケーエスピー株式会社の公式な見解や、特定の企業様(過去の在籍企業を含む)を批判・評価する意図は一切ございません。

「この基幹システム、もう限界だ……」 「でも、入れ替える金も時間もないし、何よりデータ移行が怖すぎる」

Vol.2までで「ゲリラ戦(現場の工夫)」を説いてきましたが、皆さんの足元にある基幹システムが、「CSVインポートすら怪しい」「そもそもサポート切れ寸前」という状態なら、話は別です。 それは「使い倒す」段階を超えて、「崩壊」が始まっています。

いわゆる「2025年の崖」で警鐘を鳴らされている、レガシーシステムの老朽化問題です。
(参考:経済産業省『DXレポート』

完結編となる今回は、来るべき「システム入れ替え(Xデー)」に備えて、今すぐ現場がやるべき「魂(データ)の救出作戦」。 IT用語で言う「マスタデータの整備」と「出力定義の確立」について解説します。


1. システムは「体」、データは「魂」

なぜ、システム移行は失敗するのか? それは、「体(システム)」と「魂(データ)」が癒着してしまっているからです。

  • 顧客コードが統一されていない。
  • 「備考欄」に大事な情報が手入力されている。
  • 担当者のExcelにしかない「裏マスタ」がある。

この状態でシステムが死ぬと、会社の記憶(魂)も一緒に消滅します。 だから「老朽化したシステム」と分かっていても、怖くて捨てられないのです。

「ヘッドレス・ゲリラ戦術」の真の目的は、この「癒着」を剥がすことです。 システム(体)がいつ死んでもいいように、魂(マスタと取引データ)だけを、外(Excelやkintone、中間DB)に退避させておくのです。


2. 戦術①:「マスタ」という名の憲法を制定せよ

まずやるべきは、「マスタデータの整備(=正解の定義)」です。 古いシステムのマスタは、汚れていることが多いです。これを正とせず、「自分たちの手元(Excelやkintone)」に、真のマスターデータを作るのです。

  • 顧客マスタ: 「株式会社」の表記ゆれを統一する。
  • 商品マスタ: 廃盤品を整理し、正しい型番を定義する。

現場にはこう命令します(Vol.2のミッション・コマンドです)。 「入力する際は、基幹システムのマスタではなく、必ずこの『新・マスタ(Excel)』を参照しろ」

こうして「キレイなデータ」を入力する習慣をつけさせれば、いざ新システムを入れる時、その「新・マスタ」を流し込むだけで、移行の9割は完了します。


3. 戦術②:「出力(ゴール)」を先に決めてしまう

次にやるべきは、「出力(アウトプット)の定義」です。

古いシステムから出てくる請求書や分析データが使いにくいなら、「理想の形」を自分たちで作ってしまいましょう。

  1. 今のシステムから、とりあえずデータ(CSVやPDF)を吐き出す。
  2. それをn8nやExcelマクロで加工して、「本当に欲しい形のレポート」に整形する。
  3. 経営判断や現場の確認は、その「整形後のレポート」を見て行う。

これを繰り返すうちに、「会社にとって本当に必要なデータ項目は何か(=要件定義)」が見えてきます。 「システムから何が出せるか」ではなく、「我々は何を見たいのか」を確定させるのです。


4. 結論:準備ができた時、
そのシステムは「ただの箱」になる

「マスタ(入り口)」が整備され、「出力(出口)」が定義されている。 この状態になれば、真ん中にある基幹システムは、もはや「ただの計算機」です。

ここまで来れば、もうベンダーを恐れる必要はありません。 「これが我々の『完璧なマスタ』です。そしてこれが、我々が必要とする『理想のアウトプット』です。これが入って、これが出る箱(システム)を、一番安く持ってきてください」

これこそが、中小企業における「最強の要求定義」です。 システムとしての詳細な「要件(スペック)」や「設計」を固めるのは、プロであるベンダーの仕事です。しかし、「何が正解データか」「最終的に何が見たいのか」。このシステムの成否を分ける「ビジネスの核心」は、これですべて伝わります。整ったデータこそが、無言にして最強の要求仕様なのです。

■ なぜ、今わざわざ「マスタ」を作るのか?

「今のままで十分回ってるし、新しいことを覚える時間なんてない」 そう思うかもしれません。現状維持は、一見もっともコスパが良く見えます。

しかし、あえて言います。その「現状維持」こそが、あなたの時間を最も奪っている犯人です。

毎回、顧客名の「(株)」を手動で直していませんか? 毎回、過去のメールから担当者名を探していませんか? その「ちょっとした手間」は、マスタが整備されていないことによる**「借金の利払い」**です。これを一生払い続けるのは、あまりにも馬鹿らしいと思いませんか?

■ データを整えることは、プログラミングそのもの

自分の手で「最強のマスタ」を作る。これは単なる事務作業ではありません。 「どうすれば例外がなくなるか?」「どうすれば自動化できるか?」を考える、立派なエンジニアリングです。

そして、データさえ整えば、Excel関数でも、n8nでも、AIでも、ツールは驚くほど素直に動いてくれます。 「あ、コンピュータが自分の思い通りに動いた!」 この快感を知った時、あなたのITスキルは飛躍的に向上しています。

誰かの作ったシステムに使われるのではなく、自分の作ったデータでシステムを使い倒す。 その「万能感」を手に入れるための第一歩が、今日からの1行のコピペなのです。

5. エピローグ:生存戦略のその先へ

全3回にわたり、「CPU型(判断)」「ミッション・コマンド(自律)」「データ・インディペンデンス(独立)」について説いてきました。

これらは全て、「主導権を自分たちの手に取り戻す」ための戦いです。 AIにも、システムにも、ベンダーにも、あなたの会社の運命を委ねてはいけません。

道具は使い倒すもの。ルールは自分たちで作るもの。 その「野生の思考」を取り戻した時、我々、中小企業は、どんな大企業よりも強く、速く、しなやかな組織へと進化しているはずです。

あなたの会社の「入力」と「出力」、整理できていますか?

私は、製造現場の「もったいない」を知るSEとして、その「めんどくさい」に隠された「お宝データ」を発掘し、仕組み化するお手伝いをしています。

「高いシステムを入れたけど使われていない」「Excel地獄から抜け出したいが、何から手をつければいいかわからない」

そうお考えの経営者様、ご担当者様。 まずは、あなたの現場の「めんどくさい」を、私に聞かせていただけませんか。

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