「システム化で脱・属人化」の大嘘。ベンダー製アプリこそが、手出しできない「究極のブラックボックス」である理由【新春連載:「卒Excel」ロードマップ 第1部】
※この記事は、筆者(上野)の過去の個人的な実体験に基づき、製造業におけるデータ活用の課題と「伴走支援」の重要性について考察したものです。ケーエスピー株式会社の公式な見解や、特定の企業様(過去の在籍企業を含む)を批判・評価する意図は一切ございません。
こんにちは。システムエンジニアの上野です。
新年早々の記事ですが、同業者のシステム会社から怒られるかもしれないことを、あえて書きます。
世の中は「DXだ」「脱Excelだ」と騒がしいですね。 「Excelで業務管理なんて時代遅れだ。クラウドシステム(SaaS)を入れて、属人化を解消しましょう」 そんな営業トークを、耳にタコができるほど聞いてきたのではないでしょうか。
そして、真面目な社長様や担当者様ほど、こう思ってしまいます。 「ウチはまだExcelなんか使っている…恥ずかしい…」と。
その罪悪感、今すぐ捨ててください。
元・製造現場15年、現・SEの私から言わせれば、その認識は「半分正解で、半分間違い」です。 むしろ、何も考えずに導入したベンダー製アプリこそが、貴社の業務を停止させる 「究極のブラックボックス」 になり得るという事実を、皆さんはまだ知りません。
今回は、新春短期連載『KSP流「卒Excel」ロードマップ(全3部作)』の第1部として、皆さんが信じ込まされている「脱Excel」の嘘と真実について、辛辣ですが本質的なお話をします。
1. 定義の逆転:「Excel」は透明、「SaaS」は真っ黒
よく「Excelマクロは、作った本人しか直せないから『属人化』の温床だ。中身がブラックボックス化する」と言われます。
確かに、スパゲッティのように絡まったマクロは問題です。しかし、技術的な視点で見ると、実は定義が真逆なのです。
Excelは「ホワイトボックス」である
Excelの裏側にあるプログラム(VBA)や計算式は、その気になれば 「誰でも見ることができます」。 中身がどうなっているか、コードが全て開示されている。つまり、構造が透明な「ホワイトボックス」なのです。 社内の誰かが勉強すれば(あるいは専門家が見れば)、必ず修正できます。
ベンダー製アプリこそ「ブラックボックス」である
一方で、月額制のクラウドサービス(SaaS)やパッケージソフトはどうでしょうか? 皆さんは、その中身(ソースコード)を見ることができますか? 絶対に見れません。 これが何を意味するか。 「ちょっとここを直したい」と思っても、ユーザー側では1ミリも手出しができない ということです。
ベンダーが「仕様です」と言えばそれまで。「サービス終了します」と言えば、業務ごと蒸発します。 中身が一切見えず、手も触れられない。これこそが、IT業界における 「真のブラックボックス」 です。
2. Excelは「古い表計算ソフト」ではない
多くの経営者がExcelを「ただの計算機」か「帳票作成ツール」だと思っています。 その認識が、DXの判断を誤らせます。
SEの視点で見ると、Excelは以下の3つを兼ね備えた 「世界最強のローコード開発ツール」 です。
- 画面(UI): 誰でも直感的に入力フォームが作れる。
- データベース(DB): データを蓄積し、加工できる。
- ロジック(Code): 関数やVBAで、複雑な条件分岐や自動化が組める。
これだけの機能を持ち、世界中のビジネスPCにインストールされていて、追加費用がゼロ。 こんな化け物のようなツールは、他に存在しません。
経済産業省の『DXレポート』では、老朽化したシステム(レガシーシステム)のブラックボックス化が警鐘されていますが、皮肉なことに、中途半端な専用システムを入れるくらいなら、Excelの方がよほど「可視性」と「柔軟性」が高いケースが多々あるのです。
3. 製造現場の「治具」と「工作機械」
製造業の皆さんなら、この例えが一番しっくりくるはずです。
- Excel = 「自作の治具(ジグ)」
- システム = 「ドイツ製の最新工作機械」
自作の治具は、ベテランのAさんが作った手作り品かもしれません。確かにAさんしか調整できない(属人化)リスクはあります。 しかし、壊れたら現場で直せますし、「ここを削ればもっと使いやすくなる」と改良も即座にできます。ラインは止まりません。
一方で、最新の工作機械はどうでしょう。 性能はいいですが、故障したらメーカーのエンジニアを呼ばなければなりません。「部品の取り寄せに2週間かかります」と言われたら? その間、ラインは完全に停止します。現場の人間は、ネジ一本外すことすら許されません(保証対象外になるから)。
中小企業の現場において、本当に「強い」のはどちらでしょうか?
変化が激しく、小回りが求められる中小企業の現場において、「自作の治具(Excel)」を捨てて、「ブラックボックスな機械(システム)」に全てを委ねることが、果たして正解なのか。 私は、必ずしもそうではないと考えます。
4. 結論:Excelを使うことに罪悪感を持つな
「ウチはまだExcelだから…」と下を向く必要はありません。 むしろ、現場の知恵と工夫で「治具」を作り上げ、業務を回していることに誇りを持ってください。
ただし、「やってはいけないExcelの使い方」 があるのも事実です。 治具にも「設計図」が必要なように、Excelにも「守るべきルール」があります。それがないと、本当に誰も触れない「呪いの装備」になってしまいます。
次回は、Excelの強み(ホワイトボックス)を活かしつつ、将来的なシステム化(SaaS連携など)も見据えた、「正しいExcel運用の作法」をより実践的な話を絡めつつお話ししたいと思います。
Excelは「捨てる」ものではなく、「飼いならす」ものです。 2026年、まずは手元の武器を磨き上げることから始めませんか?
【次回予告】
▶︎ 第2部へ続く(1/14 公開予定)
「ベンダー製アプリは中身が見えない(ブラックボックス)だから、言い値で管理されるしかないのか?」
いいえ。発注側が「ある一言」さえ言えれば、中身を知らなくても主導権は握れます。
「システム連携したい」と相談してはいけません。
次回、システム会社の言いなりにならず、見積もりを劇的に下げる「魔法の言葉」を伝授します。
>>必要なのはIT知識ではなく、「入口と出口」を握る力だった。開発費を半減させる、「発注の極意」戦略編です。
※次回記事は 1/14(水) 07:00 に公開されます。
私は、製造現場の「もったいない」を知るSEとして、その「めんどくさい」に隠された「お宝データ」を発掘し、仕組み化するお手伝いをしています。
「ウチも同じ問題を抱えている」 「何から手をつければいいか、一緒に考えてほしい」
そうお考えの経営者様、ご担当者様。 まずは、あなたの現場の「めんどくさい」を、私に聞かせていただけませんか。
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